生成AI利活用計画書とは、業務で生成AIをどう使うかを、利用目的・利用予定範囲・利用するサービス名・入力情報の取扱い・リスク対策といった9つの項目で整理し、業務計画書とあわせて発注者(調査職員)に提出する書類です。国土交通省が令和8年7月29日付の通知で直轄土木業務の特記仕様書に生成AIの取扱いを明記する運用を定めたことで、建設コンサルタント業務等で作成が求められるようになりました。
本記事は、国土交通省大臣官房技術調査課が令和8年7月29日に発出した通知「建設コンサルタント業務等における生成AI利活用等について(依頼)」(国技建管第3号・国技建調第2号)と、同通知に添付された生成AI利活用計画書のひな形および発注者確認チェックリストをもとに整理しています。実際に何をどこまで記載するかは、当該業務の特記仕様書の記載および調査職員の指示が優先します。着手時の協議で必ず確認してください。
対象となる業務
通知が対象としているのは、建設コンサルタント業務等請負業者選定事務処理要領(昭和45年12月10日付け建設省厚第50号)第3各号に定める測量、土木関係建設コンサルタント業務、および地質調査業務です。官庁営繕関係と港湾空港関係は除かれています。このほか発注者が必要と認める業務も対象になります。地質調査業務が明示的に含まれている点は、ボーリング柱状図や土質試験結果のとりまとめにAIを使う場合に関係してきます。
適用は通知日以降に発注する業務のほか、発注手続き中の業務や契約済みの業務についても、対応可能なものから順次となっています。地方整備局はこの通知を受けて局内に展開しており、関東地方整備局は令和8年8月4日付(国関整技管第56号)で関係各課・事務所に通知しています。すでに契約している業務でも、発注者から依頼が来る可能性があるということです。
なぜ計画書の提出が求められるようになったのか
通知は、生成AIの活用が受発注者双方の業務効率を飛躍的に高める可能性を持ち、今後の積極的な利活用が求められている、という認識から始まっています。そのうえで、機密性の高い行政情報や個人情報の不適切な外部送信、特にクラウド型AIサービスへの無秩序な入力が情報セキュリティ上の懸念となり得ると指摘しています。禁止するのではなく、使う前提でルールを共有する形になっている点が特徴です。
もうひとつの柱が成果物の作り方です。将来的に生成AIによる知識活用や高度な情報検索・分析を行うことを見据え、成果物の構造化と機械可読性の向上を図ることが重要だとしています。計画書の提出と、成果物の作り方の見直しが同じ通知で並んでいるのはこのためです。
特記仕様書に記載される4つの条項
| 条項 | 内容 |
|---|---|
| 本業務での生成AIの取り扱い | 生成AIを用いた成果等をとりまとめる場合は、利用範囲を受発注者の協議で定め、生成AI利活用計画書に記載して調査職員に提出する。ここでいう成果等とは報告書・設計成果に直接影響するもので、報告書本文の生成(要約・文章生成)、設計条件の整理・記述生成、発注者への提出書類などが想定されている |
| 情報漏洩リスク対策への留意事項 | 業務計画書の「行政情報流出防止対策の強化に関する事項」に、生成AIを利活用することによるリスク対策等を明示する |
| 生成AIを用いた成果物の留意事項 | 契約書第8条に定める特許権等、第三者の権利の対象となりうることに留意する。生成AIを用いて作成した成果、または生成AIが成果内容の作成に実質的に寄与した箇所は、その旨を成果物に明示する。特に画像等で利用した場合は原則として注釈を付ける |
| 機械可読性に配慮した成果物の作成 | 構造化された見出し体系や明確な章立ての検討、図表への適切なキャプションやテキストの付与、要旨・目次・結論等の主要部分についてマークダウン形式等での概要資料の作成、データや図表の元データ(CSV、JSON等)の提供。業務の特性等により困難な場合は別途協議 |
令和8年7月29日付 国技建管第3号の特記仕様書記載例をもとに整理。条番号は業務ごとに異なります。
計画書の提出が不要になる場合がある
通知には、計画書の作成指示が不要となる場合が明記されています。生成AIを用いた成果等のとりまとめを行わず、受注者側での一般的な調査等での利用に留まる場合です。例として、法令や基準・文献の検索補助、検討資料のたたき台の作成が挙げられています。この場合は従来どおり、業務計画書に行政情報流出防止対策の強化に関する事項等を記載することで足ります。
つまり、社内で下調べに使うだけなのか、成果品そのものの作成に使うのかで扱いが変わります。ただし履行中に必要が生じた場合は、発注者から速やかに計画書の提出を依頼することとされているため、途中で使い方が広がったときは協議が必要になります。判断に迷う場合は、使わない前提で進めるより、着手時に用途を示して協議しておくほうが後戻りがありません。
計画書に書く9つの項目と、書き方の具体例
ひな形は9項目で構成されています。以下、項目ごとに何を書くかを見ていきます。番号はひな形の並びに対応しています。
1. 業務名/2. 受注者名
業務名は契約書に記載されたものと一致させます。受注者名は会社名だけでなく、部門名と管理技術者氏名まで記載します。あわせて提出日を忘れずに入れます。発注者側の確認項目にも、契約書との一致と提出日の記載が入っています。細かい点ですが、差し戻しの理由としては最も多くなりやすいところです。
3. 利用目的
なぜ生成AIを使うのかを1、2文で書きます。抽象的に「業務効率化のため」とだけ書くより、どの作業の時間を減らして何に充てるのかまで書いたほうが、後の協議がスムーズになります。あわせて、技術的な判断は生成AIに委ねないことを明記しておくと、品質面の懸念に先回りできます。発注者側では、利用目的が本業務の内容と整合しているかも確認されます。
4. 利用予定範囲
ひな形では、使用予定の業務工程、対象とするデータ、作業の概要の3つを書くことになっています。工程ごとに、どの作業でどう使うかを具体的に書きます。打合せ記録の文字起こしと要約、既往資料の要約と論点抽出、報告書の章立て案と文案の作成、照査時の誤字脱字や用語不統一の確認補助あたりが、実務では書きやすい内容です。
逆に、設計計算そのものや構造の妥当性判断は使わないと明記しておくほうが安全です。使う範囲を広く取るほど、後から確認体制の説明を求められます。なお、この利用範囲は受発注者の協議で定めるものとされているため、協議を経た内容になっているかが確認されます。
5. 利用予定の生成AIサービス名
サービス名称と提供元、利用形態(クラウド、オンプレミス等)を書きます。ひな形には、複数のLLMを用いて提供されるサービスを利用する場合もそのサービス名を記載する、という注記があります。基盤モデルを直接使うのではなく国内事業者のサービス経由で使う場合も、そのサービス名を書くということです。
選定にあたって重要なのは、入力したデータが提供事業者のモデル学習に利用されない契約または設定になっているかどうかです。法人向けプランや、学習利用をオフにする設定の有無を確認し、その結果を次の項目に書きます。個人契約の無償版は入力内容が学習に使われる場合があるため、業務データの入力には使わないと決めておくのが無難です。
6. 入力情報の取扱い
個人情報は原則入力しないことを明記します。そのうえで、入力データが学習に利用されないようにする個別措置の有無を書きます。ここで効くのが根拠の書き方です。発注者側の確認項目には、学習排除措置の根拠がサービスの設定や約款等で具体的に示されているか、という視点が入っています。「安全だと考えている」ではなく、どの設定をどう変えたか、規約のどこに書かれているかまで示せる状態にしておきます。
あわせて、入力してよい情報と入力しない情報を並べて書くと、社内の担当者が迷わなくなります。
- 入力してよい例:公開されている技術基準や指針、自社が作成した文案、固有名詞と数値を伏せたうえでの検討事項の相談
- 入力しない例:発注者から貸与された未公表資料、用地関係者などの個人情報、第三者に著作権のある図面や写真や文献本文、保安上の理由で公開されていない施設情報
7. リスク対策
情報漏洩防止策、利用履歴の保存方法、誤情報や誤解誘導のリスクへの対応の3つを書きます。情報漏洩防止策は社内ポリシーやアクセス制限の整備状況、利用履歴は保存期間と削除方針、そしてその根拠となる社内規定や約款の所在まで書けると通りやすくなります。
誤情報への対応は、生成AIの出力をそのまま成果品としないことを前提に、誰が何をどう確認するかを書きます。技術的な記述と数値は原典資料と突合する、引用と出典は実在を確認する、成果品全体は照査要領に基づいて管理技術者が確認する、といった形で、既存の照査の流れに組み込むのが現実的です。発注者側では、レビュー体制が形式的でなく実際に機能する体制として記載されているかが見られます。新しい確認体制を別に立てると運用が続きません。
8. 発注者との協議内容
事前協議を実施したかどうかを明記し、協議済みであれば、そこで決まった条件や制限事項を具体的に書きます。まだ協議していない事項がある場合は、今後の協議予定を示しておきます。空欄のまま出すのではなく、未協議であることと予定を書くほうが実態に合います。
9. その他(再委託先の扱いに注意)
再委託先での生成AI利用の有無と、継続的な見直し・報告の予定を書きます。見落としやすいのが再委託先です。発注者の確認項目では、利用目的・利用範囲・サービス名と利用形態・入力情報の取扱い・リスク対策のそれぞれについて、再委託先がある場合はその分も記載されているかが問われます。再委託先が独自に生成AIを使っているなら、その内容を各項目に反映しておく必要があります。
地質調査業務でボーリング作業を外注している場合や、図面作成を協力会社に出している場合が該当します。自社だけで完結する前提で書くと、この点で差し戻しになります。
実務でつまずきやすい3つの論点
生成AIによる生成物である旨の注釈は、どこまで付けるのか
通知の記載例では、生成AIを用いて作成した成果、または生成AIが成果内容の作成に実質的に寄与した箇所を明示することとされ、特に画像等で利用した場合は原則として注釈を付けるとされています。判断の分かれ目は「実質的に寄与」の解釈です。文章の推敲まで含めると成果品のほぼ全体が対象になりかねません。実務的には、報告書の巻末に「生成AIの利用について」の記載を設けて利用したサービス名と工程をまとめ、生成AIの出力を基に作成した図表には個別に注記する、という二段構えが扱いやすい形です。どこまで個別注記するかは、着手時に調査職員と協議して決めておくと、後戻りがありません。対象の線引きと記載の文例は生成AI成果物への注釈の付け方にまとめました。
機械可読性への配慮とは何をすればよいのか
通知の記載例には4つの対応が挙げられています。報告書本体で構造化された見出し体系や明確な章立てを検討すること、図表に適切なキャプションやテキストを付与すること、要旨・目次・結論等の主要部分についてマークダウン形式等の機械可読性の高い形式で概要資料を作成すること、データや図表について可能な範囲で元データ(CSV、JSON等)を提供することの4つです。業務の特性等により困難な場合は別途協議するとされています。
手を動かす順で言えば、章と節と項に通し番号を付ける、書式だけで見出しに見せる作り方をやめる、図は画像の貼り付けだけにせず元の表データを併せて残す、といった対応になります。3つ目の概要資料は、報告書本体とは別にマークダウン形式のファイルを1つ作るということなので、これまでの成果品の作り方には無かった作業が増えます。
これは成果品の作り方そのものの見直しになるため、計画書に書いて終わりにはなりません。社内のひな形を直すところまで含めて考えておく必要があります。何をどこから直すかはAI学習に配慮した報告書とはで詳しく整理しました。データの構造化という点では、ボーリングデータの電子納品や地質調査報告書の作成で議論されてきた話とつながります。
どのサービスなら業務データを入れてよいのか
判断の軸は、入力データが学習に使われないこと、データの保存先が説明できること、社内で利用ログを管理できることの3点です。無償版と法人向けプランでは扱いが違うため、契約書や利用規約の該当箇所を確認し、確認した事実を計画書に書きます。「安全だと思う」ではなく「学習に利用されない設定であることを確認済」と書けるようにしておくのが要点です。
提出までの進め方
- 特記仕様書の生成AIに関する条項を読み、提出の要否と記載範囲を確認する
- 社内で使うサービスを決め、学習利用の設定と契約形態を確認する
- 入力してよい情報と入力しない情報を社内で線引きし、担当者に周知する
- 計画書を作成し、業務計画書とあわせて調査職員に提出して協議する
- 協議で決まった事項(注釈の方法など)を計画書に反映し、記録として残す
発注者は、受け取った計画書に誤記等がないかを「発注者確認チェックリスト」を用いて確認することとされています。チェックリストは記載項目ごとに確認の視点が整理されており、契約書との一致、学習排除措置の根拠が具体的に示されているか、レビュー体制が実際に機能する形で書かれているか、再委託先の分まで記載されているかといった観点が並びます。提出前に自社で同じ観点を通しておくと、差し戻しが減ります。
なお、各地方整備局等は当面の間、受注者から受領した業務計画書とAI計画書を本省の技術調査課まで提出することとされています(提出期限は令和9年1月末、以降の修正分は令和9年6月末まで)。提出した計画書は発注者の手元で完結せず、運用の実態を把握する材料として集約されるということです。
各手順の詳細は個別に整理しています。使うサービスの判断は業務データを入れてよい生成AIの選び方、社内の線引きを文書にするなら建設業の生成AI社内規程のつくり方、どの工程で使うかの検討は建設コンサルタント業務での生成AI活用をご覧ください。
最初の1件は時間がかかりますが、社内の線引きとひな形が固まれば、2件目以降は業務内容に合わせて差し替えるだけになります。当社では、公式ひな形の9項目に沿った様式と記入例に、提出前セルフチェックを付けて無料で配布しています。生成AI利活用計画書の様式・記入例をダウンロードからお使いください。
- Q.生成AI利活用計画書は、すべての業務で提出が必要ですか?
- A.いいえ。令和8年7月29日付の通知では、生成AIを用いた成果等のとりまとめを行う業務が対象とされています。法令や基準・文献の検索補助、検討資料のたたき台づくりなど、受注者側での一般的な調査等での利用に留まる場合は、従来どおり業務計画書に行政情報流出防止対策の強化に関する事項等を記載することで、計画書の作成指示は不要とされています。最終的な要否は当該業務の特記仕様書の記載と調査職員の指示によります。
- Q.生成AIを使わない場合でも、計画書は必要ですか?
- A.成果等のとりまとめに使わないのであれば、計画書の作成指示は不要とされています。ただし履行中に必要が生じた場合は、発注者から速やかに提出を依頼することとされているため、途中で使い方が広がったときは協議が必要です。利用しない方針であれば、その旨を業務計画書に記載して協議しておくと、後の認識違いを避けられます。
- Q.再委託先が生成AIを使う場合はどう書きますか?
- A.利用目的、利用予定範囲、サービス名と利用形態、入力情報の取扱い、リスク対策のそれぞれについて、再委託先ごとの内容も記載します。発注者確認チェックリストにも各項目で再委託先の記載を確認する視点が入っています。ボーリング作業や図面作成を外注している場合は、外注先の利用状況を着手時に確認しておく必要があります。
- Q.生成AIの出力をそのまま成果品に使ってもよいですか?
- A.使えません。出力には誤りが含まれる可能性があるため、技術的な記述や数値は原典資料と突合し、担当技術者と管理技術者が確認したうえで採用する前提で計画書を作成します。第三者の権利侵害がないかの確認も受注者側で行う必要があります。
- Q.どの生成AIサービスを使えばよいですか?
- A.特定のサービスが指定されているわけではありません。入力データが提供事業者のモデル学習に利用されない契約または設定であること、データの保存先を説明できること、社内で利用者とログを管理できることを満たすサービスを選び、その確認結果を計画書に記載します。なお、ひな形には、複数のLLMを用いて提供されるサービスを利用する場合もそのサービス名を記載する、という注記があります。
社内でどこまで使ってよいかの線引きや、実際に業務が速くなる使い方の定着までを含めて進めたい場合は、法人向けのAI活用研修もあわせてご検討ください。施工側の書類業務が中心の場合は建設業向けのAI研修をご覧ください。
Supervised by
監修:株式会社サファリテック 代表取締役 小林由快(北海道大学工学部卒。建設コンサルタント(日水コン)で土木設計・工事監理に従事した実務経験に基づき、内容を確認しています)
