結論から言うと、建設コンサルタントの設計業務は、受注・計画準備・現地踏査・解析と設計・照査・報告書・協議・納品の8工程で進み、時間がいちばんかかるのは設計の判断そのものではありません。判断を図面・数量計算書・報告書に落とし、打合せで条件が変わるたびに、それらの整合を取り直す作業です。国の標準歩掛でも、道路詳細設計の人日の約半分は横断設計・設計図・数量計算で、照査は数%にとどまります。
この記事は、建設コンサルタント(建コン)の若手・中堅の技術者と、社内のAI推進を任された方に向けて、仕事の全体の流れと、どこに時間が消えているかを整理したものです。工程ごとの詳しい話は関連の記事に分けています。建設コンサルタントのAI推進を外の手を借りて進める場合の頼み方は、サービスのページにまとめています。
建設コンサルタントの仕事の流れは、国の共通仕様書でほぼ決まっている
工程の順番と、誰がいつ何を発注者に出すかは、国土交通省の土木設計業務等共通仕様書(案)でほぼ全国共通に決まっています。自治体の業務もこの骨格を使っているため、分野が違っても流れは同じです。契約から14日以内に業務計画書を出し、設計条件は受注者が決めて調査職員の承諾を得ます。詳細設計では照査を3段階で行い、成果品は電子納品の決まりに沿って納めます。
| 工程 | やること | 主な書類 |
|---|---|---|
| 1. 受注 | 業務の目的・工程・体制・打合せ計画・照査計画を決めて発注者に出す | 業務計画書、テクリスの登録 |
| 2. 計画準備 | 貸与資料を確かめ、設計条件を決めて承諾を得る。使う計算プログラムも事前に協議する | 設計条件の整理、条件明示チェックシート(予備設計) |
| 3. 現地踏査 | 地形・旧河道・用排水・周辺の構造物・交通・環境などを現地で確かめる | 現地踏査結果(写真付き) |
| 4. 解析・計算・設計 | 概略・予備では比較案を作って最適案を選び、詳細では工事の発注に要る図面・計算・数量をまとめる | 設計計算書、設計図面、数量計算書、施工計画書 |
| 5. 照査 | ①基本条件 ②細部条件 ③成果品の3段階で確かめ、段階ごとに発注者へ報告する。詳細設計は赤黄チェックが原則 | 照査項目一覧表、設計調書、照査報告書 |
| 6. 報告書 | 検討の過程と結果を、特記仕様書の項目に合わせてまとめる | 報告書、成果概要書、概算工事費 |
| 7. 協議 | 発注者との打合せを記録し、関係機関との協議の資料を作る | 打合せ記録簿、協議資料 |
| 8. 納品 | 決められたフォルダ構成とファイル名で電子成果品を作り、チェックして納める | 電子成果品(管理ファイル・CADのSXFなど) |
出典:土木設計業務等共通仕様書(案)の各条をもとに整理
照査の段階分けと赤黄チェックの考え方は生成AIで照査・積算はどこまでできるかで、数量計算書の作り方は数量計算書の作成を効率化するで詳しく扱っています。
時間がかかるのは、判断を図面・数量・報告書に落とす作業
国の標準歩掛を見ると、人日がいちばん集まるのは設計の判断ではなく、横断設計・設計図・数量計算といった、判断を成果物に落とす作業です。道路詳細設計の試行用の歩掛では、1kmあたり61.0人日のうち、数量計算10.5・横断設計9.5・設計図8.0で、この3つだけで28.0人日、約46%になります。照査は2.0人日で約3%です。
道路の予備設計(現行の歩掛)でも、照査は1kmあたり2.7人日で、全体の5〜6%ほどです。一方で、歩掛の数字は「一度で決まった場合」の目安です。実際には、打合せのたびに条件が変わり、図面・計算書・数量・報告書を何度も直します。歩掛に表れにくいこの直しと整合取りが、現場で時間が消える所だと考えられます(ここは推論です)。
打合せは標準で7回、記録と反映がそのたびに発生する
発注者との打合せは、着手時・中間5回・納品時の計7回が積算の標準で、1回あたり3人×0.5人日、議事録づくりもこの中に含まれます。7回で約10.5人日が打合せと記録に充てられている計算です。記録簿は受注者が作り、発注者と内容を確かめ合います。そのうえで、決まったことを図面や計算書に反映する作業が毎回続きます。
| 打合せの場面 | 回数の標準 | 受注者に発生する作業 |
|---|---|---|
| 着手時 | 1回 | 業務計画書の説明、貸与資料と条件の確認、記録簿の作成 |
| 中間 | 5回 | 検討結果の説明資料、記録簿の作成、指摘事項の図面・計算書への反映 |
| 納品時 | 1回 | 成果品の説明、照査結果の報告、記録簿の作成 |
| 関係機関との協議 | 1機関あたり1回程度 | 協議資料の作成と記録(特記仕様書で定めがある場合) |
出典:土木設計業務等標準歩掛(打合せ等)、土木設計業務等共通仕様書(案)
記録簿の作り方と、決まったことを反映し漏れなく図面に落とす手順は打合せ記録簿の作り方にまとめています。
若手は判断を書類に落とし、ベテランは判断と照査を抱える
共通仕様書は、業務の技術上の管理をする管理技術者、照査を担う照査技術者、実際に手を動かす担当技術者(最大8名)を分けて置くよう決めています。照査技術者は同じ業務の担当技術者を兼ねられません。歩掛でも下の職種ほど人日が多く、図面・数量の作業は若手に、条件の判断と照査はベテランに集まります。
| 役割 | 主な仕事 | 時間が取られやすい所 |
|---|---|---|
| 管理技術者 | 業務全体の管理、発注者との打合せ、照査結果の確認 | 複数の業務を掛け持ちし、条件の判断と協議が集中する |
| 照査技術者 | 照査計画、照査①②③、照査報告書への記名 | 図面・計算書・数量の突き合わせ |
| 担当技術者(若手が中心) | 計算、図面、数量、報告書、記録簿、協議資料 | 打合せのあとの修正、年度末の体裁の調整と説明資料 |
出典:土木設計業務等共通仕様書(案)、建設コンサルタントの採用ページの社員紹介
ある建設コンサルタントの採用ページに載っている若手の橋梁技術者の1日は、午前に発注者との打合せ、午後に社内打合せ、夕方に打合せの内容を資料と図面に反映し、最後に先輩の確認を受ける、という流れでした。打合せ、直し、先輩の確認の繰り返しが、若手の時間の中心です。
残業の原因は、業務量と工期のずれと、条件が決まる遅さ
建設コンサルタンツ協会が会員企業に聞いた調査では、残業が生じる外からの原因の1位が「業務量と工期のアンバランス」で80.2%、「設計条件確定の遅れ」も55.3%ありました。社内の原因では「技術者不足」が93.9%です。国の発注業務では、契約を変えた結果、3月に納期が集まった業務が56%ありました。
| 残業の原因(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 業務量と工期のアンバランス(外的要因) | 80.2% |
| 設計条件確定の遅れ(外的要因) | 55.3% |
| 技術者不足(内的要因) | 93.9% |
| 契約変更後に3月納期となった国の発注業務 | 56% |
出典:建設コンサルタンツ協会 建設コンサルタント白書(所定外労働時間等に関する調査)
条件が後から変わると、図面・計算書・数量・報告書のどこを直すかを洗い出して、全部の整合を取り直すことになります。この洗い出しの手順は設計条件が変わったときに直す箇所の洗い出しで扱っています。
分野によって、重い工程は少しずつ違う
8工程の骨格は同じでも、分野ごとに時間が集まる所は違います。新しく造る設計より、点検や補修の内業、台帳や判定結果の転記が重い分野もあります。
| 分野 | 時間が集まりやすい作業 |
|---|---|
| 道路 | 横断設計、設計図、数量計算 |
| 橋梁 | 補修設計の前段の確認調査(損傷図の作成、形状寸法の測定) |
| トンネル | 点検の展開図と、決められた様式への記入 |
| 河川・砂防 | 部材ごとの安定計算・構造計算・配筋図の繰り返し |
| 上下水道 | 台帳の突き合わせ、調査の判定結果の転記 |
| 地質・土質 | 試験結果の整理、断面図、地盤定数、報告書 |
| 都市計画・廃棄物 | 委員会・協議会の資料と議事録、計画書の本編と概要版 |
出典:各分野の標準歩掛・自治体の仕様書・業界団体の資料をもとに整理
点検の分野で、判定のあとに残る調書や台帳への書き写しは点検のあとの調書・台帳への転記を減らすで詳しく扱っています。
AIで手伝えるのは、文書と表の整合・転記・記録
8工程のうちAIで手伝いやすいのは、決まった様式や手順に照らして、書く・写す・突き合わせる作業です。設計条件を決めること、照査の結果を判断すること、発注者と合意することは技術者に残ります。
| 工程 | AIに手伝わせやすい作業 | 技術者に残ること |
|---|---|---|
| 計画準備 | 貸与資料・基準書から条件に関わる箇所を探して一覧にする | 設計条件を決める |
| 解析・計算・設計 | 図面の数値をExcelに書き写す、数量の集計表を作る | 構造や形式を決める |
| 照査 | 図面・計算書・数量の数値を突き合わせ、食い違いの候補を出す | 食い違いが誤りかを判断する |
| 報告書 | 検討の過程から下書きと概要版を作る | 結論と考察を書く |
| 協議 | 打合せの記録簿の下書き、決まったことの反映漏れの確認 | 発注者と合意する |
国土交通省も、報告書本文の作成や設計条件の整理に生成AIを使う場合の手続きを示しています。使い始めるときは、最初に1つの業務を選んで、今かかっている時間を測ってから試すのが近道です。進め方はDXロードマップの作り方にまとめています。
- Q.建設コンサルタントの仕事は、どんな流れで進みますか?
- A.設計業務では、受注、計画準備、現地踏査、解析・計算・設計、照査、報告書、協議、納品の8工程で進みます。順番と発注者に出す書類は、国の土木設計業務等共通仕様書(案)でほぼ決まっています。
- Q.建設コンサルタントの仕事で、いちばん時間がかかるのはどこですか?
- A.設計の判断そのものより、横断設計・設計図・数量計算のように判断を成果物に落とす作業です。道路詳細設計の試行用の歩掛では、この3つで人日の約46%を占めます。加えて、打合せで条件が変わるたびに、図面・計算書・数量・報告書の整合を取り直す作業が重なります。
- Q.若手とベテランで、仕事はどう分かれますか?
- A.若手は担当技術者として計算・図面・数量・報告書・記録簿を作り、打合せのあとの修正を受け持つことが多くなります。ベテランは管理技術者や照査技術者として、設計条件の判断、発注者との協議、照査を担います。
- Q.建設コンサルタントの仕事で、AIに任せられるのはどこですか?
- A.決まった様式や手順に照らして、書く・写す・突き合わせる作業です。打合せの記録簿の下書き、図面の数値の書き写し、図面・計算書・数量の数値の突き合わせ、報告書の下書きなどが当たります。設計条件の決定、照査の判断、発注者との合意は技術者に残ります。
- 1.国土交通省 大臣官房技術調査課「土木設計業務等共通仕様書(案)」令和8年度版(第1107〜1112条・第1117条・第1202〜1211条)
- 2.国土交通省「土木設計業務等標準歩掛」令和5年度改正 新旧対照表(1-1 打合せ等)
- 3.国土交通省「土木設計業務等積算基準」令和7年度改正 新旧対照表(道路予備設計(A)・(B))
- 4.国土交通省「設計業務等における新たな積算手法について」(道路詳細設計(A)の試行用歩掛。平成22年3月の資料とみられる)
- 5.東京都建設局「詳細設計照査要領」
- 6.建設コンサルタンツ協会「建設コンサルタント白書」2022年版 第4章 4-1(所定外労働時間等に関する調査)

この記事の監修
小林 由快株式会社サファリテック 代表取締役
北海道大学工学部卒。建設コンサルタントの株式会社日水コンで、土木設計と工事監理に従事。リクルートからの業務委託で新規事業開発も経験。現在はサファリテックの代表取締役として、建設・土木向けAIプロダクトの開発を率いている。
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