結論から言うと、AIエージェントを業務で安全に使うには、開いてよいフォルダ、任せてよい操作、つなぎ先の一覧、更新と設定の担当、何かあったときの止め方の5つを、使い始める前に決めておくことです。会話で使うAIは人が貼った文章しか見ませんが、エージェントはフォルダの中のファイルを自分で開き、保存し、メールやドライブにもつながります。守る所が「入力する文章」から「AIが届く範囲」に広がります。
この記事は、建設コンサルタントで生成AIの導入を進めているDX担当者や情報システムの担当者、管理技術者の方に向けたものです。社内規程の項目と記載例は建設業の生成AI社内規程のつくり方、業務データを入れてよいサービスの見分け方は業務データを入れてよい生成AIの選び方で扱っています。ここでは、エージェントならではの決めごとに絞ります。
PHPの重大な脆弱性から分かること
2026年10月21日(協定世界時)、Webサイトを動かす言語のPHPに、認証なしで遠隔からプログラムを実行される恐れのある脆弱性が2件公表されました(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619。深刻度はCVSS v4.0で9.2)。PHPの公式は「完全な回避策はなく、更新が唯一の安全な選択肢」としています。公表の前日には番号が出回り、修正版の公開が1日前倒しになりました。国内でも、レンタルサーバー各社や大手のWebサービスが緊急のメンテナンスを行いました。
このとき困った会社の多くは、自社のホームページがPHPで動いていることを知らず、誰が更新するのかも決まっていませんでした。脆弱性はPHP本体にあるため、WordPressやプラグインを更新しても直らず、サーバーのPHPそのものを新しい版にする必要があります。
PHPの件で、まず確かめること
- 自社のホームページや社内のシステムがPHPで動いているか(WordPressならPHP)
- サーバーを誰が管理しているか(レンタルサーバー、制作会社、自社)
- 管理している先が修正版(8.5.12・8.4.27・8.3.36・8.2.35)に更新したか
- PHP 8.1以前で動いていないか(PHPの公式からの更新はなく、8.2も2026年12月31日でサポートが終わる)
- 製品の中にPHPが組み込まれている場合は、提供元の対応状況
「何が動いていて、誰が更新するか」が分かっていないと、何か起きたときに止めることも直すこともできません。これは、社内で使い始めたAIにもそのまま当てはまります。
会話のAIとエージェントで、守る所はどう変わるか
| 会話で使うAI | AIエージェント | |
|---|---|---|
| AIが見るもの | 人が貼り付けた文章や、添付したファイル | 開いてよいと許したフォルダの中のファイル全部 |
| AIにできること | 答えを返す | ファイルを作る・上書きする・消す、メールを送る、共有リンクを作る |
| つながる先 | 基本はなし | メール、ドライブ、チャット、外部のツール(拡張機能やつなぎ込み) |
| 気をつける攻撃 | 入力した内容の漏えい | 資料やWebページに紛れ込ませた指示に従ってしまう(プロンプトインジェクション) |
| 守り方の中心 | 入力してよい資料の決まり | 届く範囲と操作の権限、つなぎ先の管理 |
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織編の3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて入りました。解説書では、個人で使っているAIサービスを業務に使う「シャドーAI」や、AIに隠れた指示を読ませる攻撃にも触れています。
使い始める前に決めておく5つのこと
① 開いてよいフォルダ
エージェントには、業務に要るフォルダだけを開かせます。発注者から借りた資料は、その案件のフォルダだけに置き、ほかの案件の作業では開かせません。共通仕様書の守秘義務は、取り扱う情報をアクセス制限やパスワードで管理し、その業務のみに使うことを求めています。エージェントが「何でも開ける」状態は、この考え方と合いません。
② 任せてよい操作
操作を「任せる」「人が確かめてから」「させない」の3つに分けておきます。読む、新しいファイルに下書きを作る、は任せます。上書き、社外へのメール、共有リンク、新しいつなぎ先の追加は、エージェントを止めて人が確かめます。ファイルを消す操作や、個人アカウントのAIに資料を渡すことは、最初から設定で外しておきます。
③ つなぎ先と拡張機能の一覧
エージェントがつながっているメール、ドライブ、外部のツール、ブラウザの拡張機能を一覧にします。2025年末には、AIとの会話を外へ送っていたブラウザの拡張機能が見つかり、延べ90万回以上ダウンロードされていたと報じられました。一覧にないものは使わない、足すときは担当者が確かめる、という決まりにしておくと、知らないうちに資料が外へ出る道を減らせます。
④ 更新と設定の担当
PHPの件と同じで、更新と設定は担当を決めておかないと誰もやりません。エージェントの本体やつなぎ先の更新、入力を学習に使わせない設定、履歴の保存期間を、誰がいつ確かめるかを決めます。法人向けのサービスは、主な各社とも既定では入力を学習に使わないと公式に示していますが、同じ会社でも個人向けの版は扱いが違います。業務は法人契約のアカウントで使うことを前提にします。
⑤ 何かあったときの止め方
おかしな動きに気づいたら、誰がエージェントを止め、どのつなぎ先を切り、誰に報告するかを決めておきます。共通仕様書の守秘義務は、漏えいや目的外の利用があったとき、またはそのおそれがあるときは、速やかに発注者に報告することを求めています。作業の記録(ログ)を残しておくと、何を開き、何を保存したかを後から確かめられます。
共通仕様書の守秘義務と、エージェントで決めること
土木設計業務等共通仕様書(案)の第1130条(守秘義務)には生成AIという言葉はありませんが、7つの項目はどれもエージェントの決めごとに置き換えられます。地質・土質調査業務共通仕様書(案)の第131条にも、ほぼ同じ趣旨の守秘義務があります。
| 第1130条の項目(要旨) | エージェントで決めること |
|---|---|
| 知り得た秘密を第三者に漏らさない | 業務は法人契約のアカウントで使い、学習に使わせない設定を確かめる |
| 業務の結果を、承諾なく第三者に見せたり渡したりしない | 社外へのメール送信や共有リンクの作成は、人が確かめてから |
| 貸与された情報を業務以外の目的に使わない | 開いてよいフォルダを案件ごとに分ける |
| 業務が終わった後も漏らさない | 履歴やつなぎ先に残ったデータの扱いを決めておく |
| アクセス制限・パスワード管理等で管理し、許可なく複製・転送しない | エージェントが届く範囲を絞り、つなぎ先と拡張機能の一覧を持つ |
| 業務完了時に貸与資料を返却・消去・破棄する | エージェントの作業用の写しや履歴も消去の対象に含める |
| 漏えい等やそのおそれがあれば速やかに発注者に報告する | 止め方と報告の流れを決め、作業の記録を残す |
出典:国土交通省『土木設計業務等共通仕様書(案)』令和8年度版 第1130条を要約。右の列はサファリテックの整理で、発注者や特記仕様書の定めがあればそちらに従います。
国交省の生成AI利活用計画書との関係
国土交通省は2026年7月29日付で「建設コンサルタント業務等における生成AI利活用等について」を通知し、生成AIを使って成果をまとめる業務では、受注者が生成AI利活用計画書を出す仕組みにしました。計画書のひな形には、入力データが学習されないようにする措置の有無や、情報漏えいの防止策(社内ポリシー、アクセス制限)、利用履歴の保存方法を書く欄があります。この記事の5つを決めておけば、その欄はそのまま埋められます。計画書の書き方は生成AI利活用計画書の書き方で詳しく扱っています。
- Q.AIエージェントと会話で使うAIでは、セキュリティの何が違いますか?
- A.会話で使うAIは人が貼った文章を見て答えるだけですが、エージェントは許されたフォルダのファイルを自分で開き、保存し、メールやドライブにもつながります。そのため、入力する資料の決まりに加えて、開いてよいフォルダ、任せてよい操作、つなぎ先の管理を決めておく必要があります。
- Q.共通仕様書は、生成AIやエージェントの利用を禁じていますか?
- A.令和8年度版の土木設計業務等共通仕様書(案)には生成AIという言葉はなく、利用を禁じる条文もありません。ただし第1130条の守秘義務は、アクセス制限やパスワードでの管理、許可のない複製・転送の禁止、漏えい時の報告を求めています。生成AIの扱いは、国交省の通知と特記仕様書、発注者との協議で決まります。
- Q.法人版のAIなら、資料を入れても漏れませんか?
- A.主な法人向けのサービスは、既定では入力を学習に使わないと公式に示しています。ただし「学習に使わない」は「保存しない」ではなく、履歴の保存や一時的な保管の扱いはサービスごとに違います。エージェントの場合は、つなぎ先や拡張機能からの漏えいもあるため、届く範囲と操作の権限を絞ることが大切です。
- Q.PHPの脆弱性はAIと関係がありますか?
- A.直接の関係はありません。ただ、自社で何が動いていて誰が更新するかを把握していないと、何か起きたときに止めることも直すこともできない、という点はAIも同じです。使っているAI、つなぎ先、拡張機能の一覧と、更新の担当を決めておくことが、エージェントを使うときの守りの土台になります。
- 1.PHP「Security advisory: Critical remote code execution vulnerabilities, update now」(2026年10月21日) https://www.php.net/archive/2026.php#2026-10-21-5
- 2.The PHP Foundation「Today's PHP security release and how we're strengthening PHP security」(2026年10月21日) https://thephp.foundation/blog/2026/10/21/todays-php-security-release-and-how-were-strengthening-php-security/
- 3.日経クロステック「PHPの重大な脆弱性で緊急メンテナンス相次ぐ さくらやCygames、pixivなど」 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/12112/
- 4.国土交通省『土木設計業務等共通仕様書(案)』令和8年度版、第1130条 守秘義務 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990981.pdf
- 5.国土交通省『地質・土質調査業務共通仕様書(案)』令和8年度版、第131条 守秘義務 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001990980.pdf
- 6.国土交通省 大臣官房技術調査課「建設コンサルタント業務等における生成AI利活用等について」国技建管第3号・国技建調第2号(令和8年7月29日) https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000955100.pdf
- 7.IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html

この記事の監修
小林 由快株式会社サファリテック 代表取締役
北海道大学工学部卒。建設コンサルタントの株式会社日水コンで、土木設計と工事監理に従事。リクルートからの業務委託で新規事業開発も経験。現在はサファリテックの代表取締役として、建設・土木向けAIプロダクトの開発を率いている。
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