結論から言うと、社内の資料を入れたAIの答えがずれるのは、資料を置いただけで、探し方を業務に合わせて作っていないからです。建設コンサルタントの資料は、表が多い、スキャンや図面のPDFが混ざる、基準の旧版と新版が並ぶ、という点で特にずれやすく、どのページから答えたかが出ないと技術者は確かめられません。資料の下ごしらえと検索の仕組み(RAG)を作ると、答えに出典が付き、確かめながら使えるようになります。
GeminiのGems、ChatGPTのプロジェクトやGPTs、Microsoft 365 Copilotのエージェントに、基準書や過去の報告書を入れて「社内用のAI」を作ってみた。最初は便利だったのに、数字が合わない、古い基準で答える、と言われて使われなくなった。この記事は、そんな建設コンサルタントのDX担当者や、社内でAIの使い方を広めている技術者の方に向けたものです。会話式のAIとAIエージェントの違いは会話式のAIとAIエージェントの違いで扱っています。
資料を入れたAIの答えがずれる、よくある場面
資料を入れたAIで起きるずれは、だいたい次の4つです。どれも、資料そのものは入っているのに起きるのが特徴です。
- 基準の改定前の数値で答える(旧版と新版の両方が入っている)
- 歩掛や設計条件の表で、隣の行や列の数字を答える
- スキャンした古い報告書や図面の内容について「記載がない」と答える
- 答えは合っていそうだが、どの資料の何ページか分からず、結局元の資料を探し直す
なぜずれるのか:資料を置くだけと、探し方を作るRAGの違い
資料を置くだけの使い方では、AIは入っている資料のうち読める所だけを読んで答えます。表の形が崩れたり、スキャンが文字として読めなかったり、旧版と新版が同じ重みで混ざったりしても、AIはそれを知らないまま答えます。
RAG(検索拡張生成)は、質問に近い部分を資料から探し出し、その部分を読ませて答えさせる仕組みです。大事なのは検索そのものより、その前の下ごしらえです。表を表のまま文字にし、スキャンや図面を文字にし、旧版を外して版を付け、章・節・表ごとに分けて資料名とページを付けておく。ここまでやって初めて、答えに出典が付き、技術者がその場で確かめられるようになります。
実は、各社のサービスの中にも検索の仕組みはすでに入っています。たとえばMicrosoftは、Copilotのエージェントについて、指定したファイルが20を超えると関係のありそうな上位20ファイルだけを全文検索すると説明しています。Claudeのプロジェクトも、資料が多くなると関係する部分を検索して読む方式に自動で切り替わります。それでもずれるのは、検索の前の下ごしらえが、建設コンサルタントの資料に合わせて作られていないからです。
建設コンサルタントの資料が、置くだけに弱い4つの理由
| 理由 | 建設コンサルタントの資料の例 | 起きること |
|---|---|---|
| 表が多い | 歩掛、設計条件の一覧、比較表、数量の集計表 | 行と列の対応が崩れ、隣の数字を答える。Microsoftは、SharePointの文書の中の表は今は読み取れないと注意書きしている |
| スキャンや図面のPDF | 古い報告書、発注者から受け取った紙の資料、縦断図・平面図 | 文字のデータがないため読めず、「記載がない」と答える |
| 版が混ざる | 示方書・指針の改定前後、発注者ごとの特記仕様書、設計要領の年度版 | どちらの版か区別できず、旧版の数値で答える |
| 出典が出ない | 数百ページの報告書、複数の基準書 | 合っているかを確かめられず、技術者が使わなくなる |
このうち出典は特に大事です。設計の根拠は、照査で「どの基準の何ページか」を問われます。出典が出ないAIの答えは、そのまま成果物に使えません。
各サービスで、資料はどう扱われるか(2026年10月時点)
各サービスの「指示と資料を入れておく機能」は、2026年の秋に名前や仕組みが大きく変わっています。GemsとGPTsはどちらも、それぞれ「スキル」「プラグイン」への置き換えが公式に決まりました。名前は変わっても、資料を置くだけではずれる理由は同じです。
| サービス | 機能 | 資料の上限・扱い | 2026年秋の変更 |
|---|---|---|---|
| Gemini | Gems | 端末・Googleドライブ・ノートブックから資料を追加。資料の数の上限は公式に示されていない | 2026年9月30日に「スキル」への置き換えを発表。資料はスキルに自動で移る(スキルの資料は合計100MBまで)。Workspaceの法人版で使えなくなるのは早くても2027年3月1日 |
| Gemini | Gemini Notebook(旧NotebookLM) | 1ノートブックの資料(ソース)は無料版50、Plus 100、Pro 300 | 2026年7月16日にNotebookLMから改名 |
| ChatGPT | プロジェクト | ファイルはFree 5、Go・Plus 25、Business・Enterprise 40まで。全部を読むのか検索して読むのかは公式に説明がない | ― |
| ChatGPT | GPTs | 指示と資料を入れた自分用のChatGPT | 2026年12月11日で終了し、プラグインに移る(延長が承認された法人は2027年2月11日まで)。指示はスキルに、資料はプラグインの参照ファイルに移る |
| Claude | プロジェクト | 有料プランでは、資料が多くなると関係する部分を検索して読む方式に自動で切り替わる(容量は最大10倍) | ― |
| Microsoft 365 Copilot | エージェント(Agent Builder) | アップロード20、SharePoint 100、OneDrive 50ファイルまで。指定が20ファイルを超えると上位20ファイルだけを全文検索。全文を探させるなら合計300ページ以内が目安 | 画面の「エージェント」が「プラグイン」に置き換わる予定 |
出典:各社のヘルプ・公式ブログ・Microsoft Learn(2026年10月23日時点)。上限や日付は各社が「予定」として示しているものを含み、プランや管理者の設定で変わります。
置くだけで足りる場面、RAGを作る場面
すべてをRAGにする必要はありません。目安は、資料の量と種類、答えに数字や根拠が要るかどうかの2つです。資料が数本で文章が中心なら、置くだけで十分に役立ちます。資料が数十本を超え、表や図面、版の違いがあり、答えに数字の根拠が要るなら、RAGを作る価値があります。
置くだけで使うときに、ずれを減らすこつ
RAGを作る前でも、入れる資料を整えるだけで、ずれはかなり減ります。いま使っているGemsやプロジェクトのまま、次のことを試してください。
- 同じ基準は最新版だけを入れる。旧版が要るなら、ファイル名と指示に版を書く
- 表はPDFではなく、ExcelかCSVで入れる
- スキャンのPDFは、文字を読み取る処理(OCR)をしてから入れる
- 指示に「答えには資料名とページを必ず書く。資料にないことは『資料にない』と答える」と書いておく
- 1つに何でも入れず、業務ごとに分ける(道路の基準用、過去の報告書用など)
RAGを作るときに決めること
| 決めること | 中身 |
|---|---|
| 入れる資料と版 | どの基準・要領・過去の報告書を入れるか。改定のたびに誰が差し替えるか |
| 表とスキャンの下ごしらえ | 表を表のまま文字にする方法、スキャンや図面を文字にする方法 |
| 分け方と付ける情報 | 章・節・表ごとに分け、資料名・版・ページ・表番号を付ける |
| 出典の出し方 | 答えのどの文が、どの資料の何ページから来たかを示す |
| 確かめ方 | よく聞かれる質問と正しい答えの組を作り、差し替えのたびに答えがずれていないかを確かめる |
| 置き場所と権限 | 発注者から預かった資料を入れてよいか、誰が使えるか |
最後の置き場所と権限は、技術の話より先に決めておくと後で困りません。使っている生成AIの選び方は、生成AIの選び方で比べています。
- Q.RAGとは何ですか?
- A.RAG(検索拡張生成)は、質問に近い部分を資料から探し出し、その部分を読ませてAIに答えさせる仕組みです。答えのもとになった資料とページを示せるので、技術者が確かめながら使えます。
- Q.Gemsやプロジェクトに資料を入れるのはRAGではないのですか?
- A.サービスの中に検索の仕組みが入っているものもあります。Claudeのプロジェクトは資料が多くなると検索して読む方式に切り替わり、Copilotのエージェントも関係のあるファイルを検索して読みます。ただ、表やスキャン、版の違いを業務に合わせて下ごしらえする部分はないため、建設コンサルタントの資料ではずれが残ります。
- Q.GemsやGPTsで作った社内用のAIはどうなりますか?
- A.2026年10月時点で、Gemsは「スキル」に、GPTsは「プラグイン」に置き換わることが公式に決まっています。GPTsは2026年12月11日に終了します。指示や資料は移行できますが、引き継がれないものもあるため、早めに移行先で答えを確かめておくと安心です。
- Q.RAGを作るにはどれくらいの資料が必要ですか?
- A.量の決まりはありません。数十本を超える資料に、表や図面、版の違いが含まれ、答えに数字の根拠が要るなら、作る価値があります。まず1つの業務(たとえば道路の基準の検索)に絞って始めるのが確実です。
- 1.Microsoft Learn「Optimize content retrieval in your agent」 https://learn.microsoft.com/en-us/microsoft-365/copilot/extensibility/optimize-content-retrieval
- 2.Microsoft Learn「Add knowledge sources to your agent(Agent Builder)」 https://learn.microsoft.com/en-us/microsoft-365/copilot/extensibility/agent-builder-add-knowledge
- 3.Claude ヘルプセンター「Retrieval augmented generation (RAG) for projects」 https://support.claude.com/en/articles/11473015-retrieval-augmented-generation-rag-for-projects
- 4.OpenAI ヘルプセンター「Projects in ChatGPT」 https://help.openai.com/en/articles/10169521-projects-in-chatgpt
- 5.OpenAI ヘルプセンター「Custom GPT retirement and migration FAQ」 https://help.openai.com/en/articles/20001519-custom-gpt-retirement-and-migration-faq
- 6.Google Workspace Updates「Skills in the Gemini app」(2026年9月) https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/09/skills-gemini-app-workspace.html
- 7.Google Workspace Updates「NotebookLM is now Gemini Notebook」(2026年7月) https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/07/notebooklm-now-gemini-notebook.html

この記事の監修
小林 由快株式会社サファリテック 代表取締役
北海道大学工学部卒。建設コンサルタントの株式会社日水コンで、土木設計と工事監理に従事。リクルートからの業務委託で新規事業開発も経験。現在はサファリテックの代表取締役として、建設・土木向けAIプロダクトの開発を率いている。
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